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聖林百話

23.夢のスタートはエリス島

 ハリウッドはエリス島だ。
「お父さん、お母さんありがとう。あなたがたは貧乏という最高の贈り物をくれました」
 今年('99年)のアカデミー賞で、主演男優賞と外国語映画賞を獲得した「ライフ・イズ・ビューティフル」のロベルト・ベニーニ監督はそういってからだいっぱいに喜びを表した。
 イタリアのチャップリンと賞される彼の英語はイタリア訛りで、たどたどしかったが、かえって感動が伝わってきた(あの英語を聞いていると自信がわいてくる。私も発音は気にしなくていいんだと思った)。
 「貧乏だったからこそ、がんばってこられた」
 ハリウッドの歴史は、ロベルトのように貧しさの中からはい上がってきた者たちによって作られた。
 19世紀末から20世紀初頭にかけて飢餓、圧政、戦争などさまざまな理由で、祖国を捨て、自由の地、アメリカにやってきた彼らが初めて見る光景が自由の女神であり、入国管理施設のエリス島だった。
 自由の女神の台座には、詩人エマ・ラザルスの言葉が刻まれている。
 「疲れし者 貧しき者 重荷を解いて 休みなさい 故郷を追われし哀れな者 すべては私に委ねなさい 黄金の扉のそばで、私は光を掲げよう!」
 エリス島からアメリカの地を踏んだ移民たちの中にはハリウッドで活躍した有名人が少なくない。
 作曲家のアーヴィング・バーリンがロシアからやってきたのは、1893年、5歳の時だ。彼は正規の教育を受けなかったが、「ショウほど素敵な商売はない」「ホワイト・クリスマス」など数々のポピュラーソングで楽しませてくれた。
 映画草創期の巨人のひとり、「嵐が丘」のプロデューサー、サミュエル・ゴールドウィンが、ポーランドからやってきたのは、1896年で、14歳のときである。
 フランク・キャプラ監督がエリス島に入ったのは1903年、6歳のときだ。「エリス島の中はすごくうるさかった。入国の検査の順番を延々と待たされた」
 そのときの様子をキャプラはのちに映画「ザ・ストロングマン」の中で描いている。
 「或る夜の出来事」の女優、クローデット・コルペールがフランスからアメリカの地を踏んだのは、1912年で9歳。優しい笑顔の中に芯の強さを感じさせるのは幼いころの苦しい体験と無関係ではない。
 1908年に、イギリスから歌手ボブ・ホープが両親ときたのは、5歳の時。「今日、私があるのは、エリス島のおかげだ。いつもありがとうと感謝しているよ」
 マリリン・モンローをはじめ多くの俳優、女優を育てた演出家のリー・ストラスバーグは、1909年、7歳の時にオーストリアからアメリカにきた。
 今年のアカデミー賞名誉賞を受けたエリア・カザン監督がトルコからきたのは、1913年、4歳のとき。のちに「波止場」「エデンの東」「草原の輝き」などの名作を残したが、赤狩りの嵐に飲まれて仲間を裏切ってしまう。
 コッポラ監督は「ゴットファーザー2」の中でエリス島を描いている。シシリー島から1人でやってきたコルレオーネ少年は入国審査で、トラコーマが見つかり、隔離される。狭い部屋からみたマンハッタンの摩天楼は希望の光だったのだろうか?  スピルバーグ監督の祖先も、エリス島を経てロシアからアメリカにやってきた。彼がアニメ映画「アメリカ物語」で、エリス島を描いたのは、そうした祖先のがんばりを心に深く刻んでおきたかったから。
 ハリウッドは多くの移民たちによって作られてきた。そして今日も明日も変わらないだろう。
 マウント・リーにかかっているハリウッドサインには言葉は刻まれていないが、ハリウッドを目指す彼らは分かっている。それが夢と希望の象徴であることを。ハリウッドは現代のエリス島なのである。
 「ありがとうイタリア、ありがとうアメリカ」
 ロベルト・ベニーニが授賞式のスピーチで繰り返したように、いつか自分も成功して祖国やアメリカに感謝できる日を信じているのだ。

サンケイスポーツ 99.5.17

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