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聖林百話

9話 ハリウッドのヒギンズ博士

 ロンドンの下町の貧しい花売り娘イライザに正しい発音を教え、言葉はもちろんマナー もトップレディに仕立てあげ社交界の花形にしたのは、言語学者のヒギンズ博士。『マイ・フェア・レディ』は華麗なるシンデレラ・ストーリーだった。
 映画の都ハリウッドにもヒギンズ博士はいた。ロバート・イーストン、69歳、白い髭と肩まで垂れた銀髪、身長は190cmもある。大男のサンタクロースといったところだ。
 ミルウォーキー生まれの彼には、子ども時代のつらい体験がある。ウィスコンシン大学の最優秀卒業生であった父親はアル中でもあった。自分のあらゆる知識を息子に覚え込ま せ、暗唱させた。しかもラテン語で。気が短い父はよく怒鳴った。「早く言え、このまぬけ!」プレッシャーでロバートは吃るようになった。小学生のとき両親が離婚、母親が彼 を引き取ってサン・アントニオで暮らすようになった。その生活が彼を変え、14歳のときにラジオの人気番組『クイズ・キッズ』に出演して以来、吃りは直っていった。
 彼がハリウッドに登場したのは俳優としてだった。出演した映画は80本、800を越えるテレビのショウ番組、1000のラジオ番組と50年以上も活躍してきた。
 言葉の障害を乗り越えた体験、『クイズ・キッズ』時代にアメリカ国内を回ってさまざまな方言を学んだ経験を生かして、スターに本物の言葉を教えたいとTVプロダクション のオーディションを受けたのが、今の仕事に入るきっかけとなった。 『スカーフェイス』のアル・パチーノにキューバ訛りを、『グッド・ウィル・ハンティング』のロビン・ウィリアムズにはサウス・ボストン・アイリッシュ訛りを教えた。トム・ クルーズ、メラニー・グリフィスも、あの大スター、グレゴリー・ペック、名優ローレンス・オリビエも彼の指導を受けた。日本人としては、『将軍/ショーグン』の島田陽子が 特訓を受け、ゴールデン・グローブ賞授賞式でロバートに感謝の言葉を述べた。
 彼は今、ベバリーヒルズ・プレーハウスにある自分の会社で、俳優たちに3時間4ドルのグループ・レッスンをしている。ちなみに、会社の名前は『ヘンリー・ヒギンズ・オブ・ ハリウッド・インコーポレイティッド』という。

Biography NOV.1999 掲載

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