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聖林百話

7.古いレストランでおふくろの味

 ハリウッドに行ったらムッソ&フランク・グリルで食事をしよう。
 そう言うと、ハリウッドにはたくさんのレストランがあるのに、何も好きこのんで、一番古い店に行くことないのにと笑う者がいるかもしれない。
 だが、それは間違い。筆者がその店にこだわるのにはわけがある。
 ハリウッド大通りにこのレストランがオープンしたのは、1919年のこと。ハリウッド6669番地に開店したムッソ&フランクはたちまち人気の的になった。この小さな店を6年間、ジョン・ムッソとフランク・トゥーレは経営していた。やがてジョウゼフ・カーリースィーミとジョン・モーソウ(ムッソに似ている)に売却。名前だけはそのまま残されることになった。
 一時、この店はハリウッド大通りで唯一の高級レストランであった(現在は値段も手ごろで、中級レストラン、ファミリーレストランの格付け)人気の『フローマーズ』のガイドブックにもムッソ&フランクの名は、記載されている。
 店は繁盛して、1936年には現在の場所、ハリウッド6667番地にまで拡張されて今日にいたっている。
 ウォーク・オブ・フェイムを踏みながら、なんの変哲もないレストランにつきあたったら、そこがムッソ&フランクだ。店内に入ると、薄暗い。なんだかちょっと恐いなと思っていると、案の定、「出る」という噂があったのである。
 ムッソ&フランク店内に、作家のウィリアム・フォークナー、フィッツジェラルド、ヘミングウェイの亡霊がでるという。彼らがハリウッドのシナリオを書いていた時代、仲間たちとここで酒を飲んで映画作りに情熱を燃やしたのだ。
 1919年の開業以来、店の造りは変わっていない。私たちは1920年代にタイムスリップした感じになる。有名作家たちの亡霊が出てきたとしても、けっしておかしくはないだろう。いまも、「狂乱の20年代」の匂いが漂ってくる。
 LAで最高のマティーニ、ジューシーなチョップス、自家製チキン・ポット・パイ、ロメインレタス・サラダもいける。
 しかし、ときどき不愛想なウエイターに出会うこともある。
 あるときウエイターがシーザーサラダを運んできて、新鮮なペッパーがいるかと聞いた。
 「おねがいします」と答えた。
 すると、ウエイターはテーブルの上のペッパー・シェイカーを掴んでサラダの上に振りかけたのだ。
 こういう不愛想なウエイターばかりではないが、がいして愛想はあまりよくない。
 これでひるんではいけない。
 「時間がないので、はやくしてくれないか?」と頼んだことがある。
 「もちろんですとも」と心よく答えたが、いっこうに急ぐ気配はなかった。
 そのため、その日の午後オーデションに行くことになっていた友人の俳優は、昼食を食べ損じただけでなくスターになるチャンスを逸してしまった。
 かつて俳優のオーソン・ウェルズも、この店をとても愛した。マティーニ、濃厚なブラッディマリーを何杯お代わりしたのであろうか?
 オーク材の天井、赤いレザーの仕切り席と長椅子、部屋の仕切りはマホガニー(コートフックもついている)。小さな笠のついたシャンデリアも昔のままだ。
 豊富なメニューの中から、何を選んでいいか迷ったら、これがおすすめだ。おなかがすいていたら、仔牛肉のマルサラ風、ロースト・ラムのミントゼリー添え、ブロイルド・ロブスターなどがいい。肉料理はこの店の名物で、木曜日限定のチキン・ポット・パイが絶品だ。
 常連客がするように、食後のデザートには、この店でしか味わえないクレープ状パンケーキ”フランクネル・ケーキ”を注文しよう。ディナーのあとはデザートを。甘さをおさえてあるので心配なく。
 が、筆者のもっとも好きなのが、えんどう豆にサイコロ型のニンジンである。まさにおふくろの味。
 これがこの店にこだわる理由なのである。

サンケイスポーツ 1999/3/1 掲載

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