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聖林百話

33.ルドルフ・ヴァレンティノ物語

 ハリウッドの墓巡りは、いまや新しい観光ルートになっている。一番のおすすめは、100年の歴史を誇るハリウッド・メモリアル・パーク・セメタリー。墓地は修復され、名称もハリウッド・フォーエヴァー・セメタリーと変わった。
 芝生、道、屋根は修復され、新しいものと取り換えられた。建物も一新され、日ざしを遮るチャペルからはめこみガラスの飾台のついたしゃれた納骨堂へと続いている。衰退の一途をたどり、顧みられることのなかった墓地がみごとに甦り、人びとを引きつけている。
 このセメタリーには多くのスターや監督たちが眠っている。゛キング・オブ・ハリウッド"と呼ばれたセシル・B・デミル監督、『マルタの鷹』『黄金』のジョン・ヒューストン監督、ハリウッドきっての二枚目として活躍したタイロン・パワー、肉体派女優のジェイン・マンスフィールド、そしてルドルフ・ヴァレンティノら。
 ヴァレンティノは、゛ラテン・ラバー"と呼ばれ、世界中の女性を魅了、人気絶頂の31歳のときに急逝した伝説のスターだ。
 1895年5月6日、南イタリアのカステラネートの生まれ。父はイタリアの軍人、母はフランス人。ヴァレンティノは18歳のときにニューヨーク・ブルックリンのイタリア移民街に住み、貧しい生活の中からダンスを学んで才能を発揮した。
 ダンサーとしてジゴロのような生活を送っていた。ある日、ダンス客のひとり、女優メエ・マレーがヴァレンティノの美貌に目を留めた。それがきっかけで、ハリウッドに出た。そのころはエキゾチックなダンサー、悪党の役がほとんど、当時の大スター早川雪洲の豪邸で働いたこともある。
 ヴァレンティノをスターにおしあげたのは、『黙示録の四騎士』だ。脚本家のジューン・マティスがヴァレンティノを主役に抜擢した。セクシーなアルゼンチン・タンゴを踊り、人妻と恋に落ち、やがては非業の最期を遂げるというドラマティックな役を演じたヴァレンティノは一大センセーションを巻き起こした。
 『シーク』では、得意の乗馬を披露。ラブシーンでは目にライトを当てて瞳をきらめかせ、女性客を失神させた。映画館に出かける女性ファンたちは、ヴァレンティノに見つめられるからと、念入りに化粧をした。
 続く『血と砂』では、愛妻がいながら、他の女性を愛し、転落していく闘牛士を演じた(この作品はのちにリメイクされ、タイロン・パワーやクリトファー・ライデルが演じている)。
 次々にヒット作品を飛ばしたヴァレンティノは、パラマウントからユナイテッド・アーティストに移籍、週給1万jの大スターになった。2番目の妻、ナターシャ・ランボヴァと離婚(最初の妻は、ジーン・アッカー)。女優のポーラ・ネグリと恋に落ちた。
 だが、2人の恋を死が引き裂いた。『熱砂の舞』撮影後の26年8月、ヴァレンティノは胃潰瘍で(腹膜炎とも)入院。手術をしたが手遅れで、2日後の8月23日にニューヨークで急死(愛人が毒を盛ったという説も)。暑い夏、3日間にわたった葬儀では、10万人もの女性ファンが街頭を埋めつくした。数名の女性が後追い自殺を図った。
 遺体は列車で、ロサンゼルスに移送され、盛大な葬儀が行われた。ランボヴァからもらったアンクレットをつけ、壮麗なシルバー・ブロンズの棺に納められた。1万人以上の女性弔問客がセメタリーに押し寄せた。
 現在、壮大な記念碑を作るという計画は実現しないまま、ヴァレンティノはクリプト(壁にはめ込み式の墓)1205番に眠っている。女性ファンには禁断の愛と情熱をかき立てる象徴。男性には滑稽な演技で、にやけた「ピンク・パウダー・パフ(おかま野郎)」に思えた。
 セメタリーのはるか遠くには、ハリウッド・サインが見える。パームツリーが高くそびえ、濃いグリーンの芝生の上では子どもたちが遊んでいる。セメタリーは静かにスターと対話できる場所だ。
 筆者も何度かサンタモニカ6000番地にあるセメタリーを訪れたが、いつも幸せな気分になれる。

サンケイスポーツ 99.7.12

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