不動産王、ドナルド・トランプ
ニューヨーク摩天楼で真っ先に思い浮かべるビルは? 私はトランプ・タワーと答える。五番街にある金ピカのビル。アメリカの金閣寺と言ったら足利義満に失礼か。だが、義満に勝るとも劣らない魅力的な人物がドナルド・トランプ(五十八歳)だ。‘You’re Fired!’(首だ!)の流行語まで生んだ人気テレビ番組『THE APPRENTICE』を自ら企画し出演した。番組ではさまざまな分野のスペシャリスト十六人がグループ面接をして最後に残った一人がトランプの部下として働くことができる。二つのチームに分かれてプロジェクトを制覇していくのだが、負けたチームのメンバーがトランプの面接を受けて、トランプは一人を解雇する。そのときの言葉が「首だ!」。 最後まで残ったメンバーはトランプに雇われる。You’re Hired!.(採用だ!)。大衆の心を掴む天才は、今年一月、二十四歳年下のスロベニア出身のスーパーモデル、メラニア・クナウスの心を掴み、三度目の結婚。いったいトランプとは何者なのか? 不動産王。トランプはアメリカ最大の不動産デベロッパーではないが、もっとも成功したデベロッパーといえるかもしれない。開発したビルはニューヨークのグランド・ハイアット・ホテル、トランプ・タワー、トランプ・プラザ、アトランティックシティのトランプズ・キャッスル・ホテル&カジノ。わずか四つのビル開発で世界的に有名になった。一九四六年ニューヨーク生まれ。父はニューヨーク周辺の中産階級向けの住宅開発を手がけていた。自己主張が強く、攻撃的だった少年は父の事業に興味を示し、ペンシルベニア大学を卒業すると一族が経営する不動産会社で働くようになる。父とは異なったビジネスのやり方で商才を発揮した。父は低価格の物件を扱ったが、息子はマンハッタンの高層マンションに狙いを定めた。そのために彼は何をしたか。二十六歳のとき、マンハッタンのアッパーイーストと呼ばれる高級住宅街の小さなスタジオを借りてビジネスを始めたのだ。自らが広告塔となって活動した。髪をなでつけ、高級ブランドスーツをおしゃれに着こなし、、ナンバープレートにはイニシャルの「DJT」を付け、運転手付のキャデラックに乗り、夜な夜なファッションの中心、マジソンスクエア・ガーデンに出没したのだ。トランプの名を一気に有名にしたのは一九八〇年(三十四歳)のとき、ニューヨークのグランド・セントラル駅に隣接するホテル、グランド・ハイアットを蘇らせたのだ。土地を安く手に入れた上、抜群の交渉力でニューヨーク市から減税措置を受けた。当初はニューヨーカーからバッシングの嵐だったが、完成すると多くの人たちに受け入れられた。豪華なロビーに四階吹き抜けのガラス張りのアトリウムなどで度肝を抜いた。ブランディング作りが巧みなのだ。もっとも開業時には「トランプ」と記した巨大な旗をグランド・セントラル駅に吊るして市長を激怒させたことも。高級感とパフォーマンスでトランプの名は全米に轟いた。建物の細部に徹底的にこだわり、「最高級なものを作り上げ」て完成したのがトランプ・タワーだ。ティファニーの隣りの十二階建てのコンドミニアム。大理石をコンドミニアムに採用するアイデア。小型で低層のコンドミニアムの多い五番街ではひときわ目立ち、セレブリティたちの心理を巧みに掴んだ。「私にとって金はそれほど大きな動機ではなく、単に実績を記録するための手段にすぎない。本当の魅力は、ゲームをすること自体にあるのだ」(『トランプ自伝』(早川書房・ドナルド・J・トランプ&トニー・ウォーツ 枝松真一訳)。経営するカジノが倒産してもへこたれない。多額の負債で、何度も経営破綻に陥ったが復活した。人生をゲームとして楽しみ、自らのブランディングに成功したトランプは言う。「人生の出来事のほとんどすべては運です」
2005/2/21 フジサンケイ ビジネス・アイ
















